如来(にょらい)とは「悟りを開いた者」を意味し、仏像の最上位に位置します。出家し、悟りを開き仏陀となった『釈迦如来』、釈迦入滅から56億7千万年後に仏陀となり人々を救済する『弥勒如来』、極楽浄土にいる『阿弥陀如来』、病気平癒を司る『薬師如来』などがあります。これら如来像は全て、悟りを開いた釈迦の姿を表わしているので、衲衣(のうえ)という質素な布をまとっています。欲を捨て去ったお姿ですね。また、『大日如来』のように豪華なアクセサリーを纏った如来像もあります。モデルとなったお釈迦さまには「三十二相八十種好」という身体的特徴があり、右巻きの丸まった髪の毛「螺髪」や白く長い一本の毛が額に渦を巻く「白毫」などが如来像にはよく表わされます。それぞれの如来像は「印相」(手のポーズ)で見分けることができるものもありますので、指の先までじっくり拝観してみましょう。

それでは、奈良にはいったいどんな如来像があるんでしょうか。

※仏さまの可愛らしいイラストは、『奈良観光ガイド』の スタッフ さんの力作です! ときどき更新していきます。お楽しみに!

釈迦如来

釈迦如来は仏教の開祖釈迦の尊像です。釈迦の死後、その偶像化は禁止されていましたが、多くの地域の人々に教えを広げるため、紀元一世紀頃になって初めての仏陀像が誕生。その最初の仏像が釈迦如来像でした。釈迦如来像の多くは「施無畏・与願印」という印相をしているのが特徴です。代表的な釈迦如来像をご紹介していきましょう。

法隆寺金堂釈迦三尊像


現存世界最古の木造建築物である法隆寺金堂に安置されている釈迦三尊像は非常に有名です。聖徳太子亡き後、止利仏師が太子の冥福を祈って作ったとされる釈迦三尊像で、一つの光背の中に薬王菩薩、薬上菩薩を従えた珍しい三尊形式となっています。杏仁様の目やアルカイックスマイルといった飛鳥時代の特徴を今に伝える大変貴重な仏像です。

像名: 釈迦三尊像
文化財区分: 国宝
制作年代: 623年
材質:
像高: 86㎝(中尊)
安置場所: 法隆寺金堂

室生寺弥勒堂釈迦如来像

室生寺弥勒堂に客仏として安置されている釈迦如来像は、平安前期彫刻の白眉として知られています。螺髪が無く、肌は白く、どっしりとした体躯を包む衣紋が大波と小波を交互につける翻波式衣紋となっていて、まるで渓谷の清流を思わせるような、なんとも涼やかな仏像です。

像名: 釈迦如来坐像
文化財区分: 国宝
制作年代: 平安前期
材質: 木(ヒノキ)
像高: 105㎝
安置場所: 室生寺弥勒堂

その他で見られる場所

西大寺(本堂)/東大寺(東大寺ミュージアム内)/など

薬師如来

薬師如来は全ての人の病気を癒し、国の災禍まで治す現世利益をもたらす如来です。飛鳥時代には既に信仰されており、奈良には天皇や皇后を始め、皇族の病気平癒を祈って当時作られた薬師如来が、今なお多く残されています。見分け方のポイントは、左手に持つ「薬壺(やっこ)」です。どんな病も治してしまう万能の薬が入っているそうです。代表的な薬師如来像はこちら。

薬師寺金堂薬師如来像

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天武天皇が鵜野皇后(後の持統天皇)の病気平癒を祈願して発願した薬師寺のご本尊。両脇の日光菩薩・月光菩薩と合わせ三尊形式となっています。実は薬師如来の特徴である薬壺は奈良時代末期以降持たせられるようになった物だそうで、それ以前の古い像の場合は薬壺を持っていないんです。造立当初は黄金色に輝く御姿だったそうですが、今は漆黒の色合いが一層神秘的な美しさを感じさせます。

像名: 薬師如来立像
文化財区分: 国宝
制作年代: 白鳳~奈良前期
材質:
像高: 254cm
安置場所: 薬師寺金堂

新薬師寺本堂薬師如来像


光明皇后が聖武天皇の病気平癒を祈願し建立したと伝えられる新薬師寺。そのご本尊である薬師如来像は、平安時代初期の作とされる国宝です。他の薬師如来像とはお顔がやや異なり、大きく見開いた眼が特徴的です。また、厚い肉付きのどっしりとした体躯は見る者になんともいえない安心感を与えてくださいます。その大きな眼から特に眼病平癒の仏様として信仰を集めました。

像名: 薬師如来坐像
文化財区分: 国宝
制作年代: 平安初期
材質: 木(カヤ)
像高: 191cm
安置場所: 新薬師寺本堂

その他で見られる場所

法隆寺(金堂)/法隆寺(講堂)/唐招提寺(金堂)/元興寺(収蔵庫内)/など

阿弥陀如来

阿弥陀如来は西方極楽浄土の主。東の果てに住み現世利益を司る薬師如来とは対照の存在で、私たちが亡くなったあと、極楽へ連れて行って下さる仏様です。日本では、鎌倉時代には浄土信仰の盛り上がりとともにこの阿弥陀如来が大いに信仰を集めるようになりました。阿弥陀如来の特徴は、印相にあります。九品往生印といい、指で輪っかを作った九種類の印相で、善人から極悪人に至るまであらゆる人を救済するという意味があります。印相について詳しくはこちらをご覧ください。奈良の主な阿弥陀如来像はこちらです。

法隆寺伝橘夫人念持仏

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光明皇后の母である橘夫人が所有していた仏像とその厨子が、現在法隆寺大宝蔵院に安置されています。厨子の中にいらっしゃるのは阿弥陀三尊像と伝えられ、厨子の床を蓮池に見立て、その池から咲く美しい華の上に阿弥陀如来が坐っているお姿が見事に表現されています。

像名: 阿弥陀三尊像
文化財区分: 国宝
制作年代: 白鳳時代
材質:
像高: 40~50㎝
安置場所: 法隆寺大宝蔵院

俊乗堂阿弥陀如来像

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俊乗坊重源上人を祀る東大寺俊乗堂の一隅に、一体の阿弥陀如来立像が安置されています。この阿弥陀如来はあの親鸞上人に特に信仰され、親鸞が南都留学を終えてこの像を京に持ち帰ろうとしたところ、東大寺の僧が拒み右足の甲に大きな釘を打ち付けてしまったという伝説があり、「釘打ちの弥陀」とも呼ばれています。鎌倉時代の大仏師、快慶の刻銘があり、端正な顔立ち、全体として穏やかで上品な雰囲気はいかにも快慶の作風を感じさせます。

像名: 阿弥陀如来立像
文化財区分: 重文
制作年代: 鎌倉時代
材質:
像高: 約1m
安置場所: 東大寺俊乗堂

その他で見られる場所

五劫院(本堂)/元興寺(本堂)/当麻寺(本堂)/長岳寺(本堂) など  ※奈良周辺では円成寺(本堂)/岩船寺(本堂)/浄瑠璃寺(本堂)/など

大日如来

大日如来は、空海や最澄が日本に伝えた「密教」という教えの中で生まれた如来です。宇宙の中心にいて絶対的な力を持つ、太陽のような存在と言われています。本来、如来は衲衣という質素な布を一枚纏っただけの姿ですが、大日如来だけは、宝冠、腕輪、首飾りなど大変豪華なアクセサリーを付けていらっしゃいます。密教の教えには金剛界と胎蔵界という二つの世界があり、それぞれの世界の中心に大日如来がいます。それぞれの世界で大日如来の印相は異なり、金剛界大日如来は忍者のように指を結ぶ「智拳印」、胎蔵界大日如来は手のひらを重ね瞑想する「法界定印」となります。さて、奈良の大日如来像といえばこちらです。

円成寺大日如来坐像

奈良市街から柳生街道へ向かう道中にひっそりと佇む円成寺。その境内の多宝塔には、大日如来像が一体安置されています。平安時代末期の作と伝えられるこの大日如来像は、あの大仏師運慶の最初期の作品で、若き運慶が世に送り出したデビュー作とも言われています。智拳印を結ぶ両手と引き締まった体躯は、見る者に新たな時代の到来を感じさせる力強さを伝える傑作です。

像名: 大日如来坐像
文化財区分: 国宝
制作年代: 1176年
材質:
像高: 98.2cm
安置場所: 円成寺多宝塔