菩薩は出家前の釈迦の姿を表し、如来の衆生救済を援ける。悟りを求めて修行をしながら、苦しむ人々を救う仏さまです。出家前のお釈迦さまは古代インド・マガタ国王の子、つまり王子様でしたので、それを再現した菩薩のお姿は、高く結い上げた髪の上に宝冠を被り、胸の「瓔珞」や腕の「腕釧」などいかにも王族らしい豪華なアクセサリーで着飾っているのが特徴です。また、菩薩はすべての人々の苦しみや願いを救うため、様々な法力や功徳を持つものが造られるようになりました。代表的なものに文殊菩薩や地蔵菩薩、また十一面観音や千手観音などの観音菩薩像があります。

それでは、代表的な菩薩像をご紹介しましょう。

※仏さまの可愛らしいイラストは、『奈良観光ガイド』の スタッフ さんの力作です! ときどき更新していきます。お楽しみに!

文殊菩薩

 

文殊菩薩は実在の人物で、釈迦の弟子の中でも最も優れた知恵の持ち主とされており、知恵の象徴として信仰されています。百獣の王である獅子の上に乗り、知恵を表す剣やお経を持っているのが一般的です。知恵によって悟りの世界へ導いてくださると言われています。「三人寄れば文殊の知恵」のことわざで知られる、知恵の菩薩様です。

安倍文殊院文殊菩薩騎獅像

獅子も含めた像高は7mにも達する巨大な像。あの仏師・快慶が1203年に制作したものと言われています。獅子に跨った文殊菩薩様と、それに付き従う善財童子、維摩居士、優填王、須菩提という4体の脇侍が海を渡る様子が表わされた渡海文殊像で、5体ともに2013年、国宝に指定されました。安倍文殊院は、京都の切戸文殊、山形の亀岡文殊と併せて日本三文殊として名高いお寺です。

像名: 文殊菩薩騎獅像
文化財区分: 国宝
制作年代: 鎌倉時代
材質: 木造(寄木)
像高: 約7m
安置場所: 安倍文殊院本堂

 

その他で見られる場所

西大寺(金堂)/興福寺(東金堂)/など

地蔵菩薩

釈迦の入滅後、弥勒菩薩が出現するまでには56億7千万年(!)の時が必要です。その間、現世においては仏が不在となってしまうため、六道(地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人道・天道)を輪廻する衆生を救ってくださるのが地蔵菩薩です。浄土信仰が普及した平安時代以降には、極楽往生の叶わない者は地獄に落ちるという信仰が強まりました。そんな中、地獄まで来て救ってくださる地蔵菩薩は庶民の信仰を集めるようになりました。手には錫杖を持つのが一般的で、これは杖をつきながら六道を渡り歩く姿とされています。

帯解寺子安地蔵菩薩立像

安産祈願の寺として知られる帯解寺のご本尊。弘法大師一刀三礼の作とも伝えられる、日本最古の求子安産の地蔵菩薩です。腹に帯を巻いて見えることから「腹帯地蔵」といわれ、安産祈願のお地蔵様として広く信仰を集めています。近年においても皇族の美智子さま、秋篠宮紀子さま、雅子さまが安産祈願を行われました。

像名: 子安地蔵菩薩立像
文化財区分: 重要文化財
制作年代: 鎌倉時代
材質: 木造(寄木)
像高: 約182cm
安置場所: 帯解寺本堂

 

その他で見られる場所

法隆寺(大宝蔵院)/十輪院(本堂)/聖林寺(本堂)/など

観音菩薩

観音(観世音菩薩、観自在菩薩)は大いなる慈悲の菩薩で、あらゆる人々を救い、あらゆる人々の願いを叶えるため、さまざまな姿で描かれます。関西では特にこの観音信仰が盛んで、いまでも西国三十三所と呼ばれる観音霊場にたくさんの方がお参りをされます。また、光明皇后や聖徳太子のような偉大な人物は観音様の生まれ変わりという信仰から、それらをモデルとした観音像が造られました。

法華寺十一面観音立像

十一面観音は、悩み苦しむ人々がどこにいても見つけ出せるよう、あらゆる方向を向く十一面のお顔を頭部に持つ観音様です。奈良市内の門跡尼寺・法華寺には、光明皇后をモデルに製作されたと伝わる十一面観音像が安置されます。カヤの一木で彫りあげた、生身のように美しい観音様で、一歩足を踏み出す瞬間の軽やかな足元や、厚いくちびるに微かに残る朱の色など、とても女性的な魅力に溢れ、絶世の美女と謳われた光明皇后の美しさや大いなる慈しみを感じることができます。なお、秘仏のため拝観可の時期が限られます。

像名: 十一面観音立像
文化財区分: 国宝
制作年代: 平安時代初期
材質: 木造(一木)
像高: 約1m
安置場所: 法華寺本堂

 

その他で見られる場所

長谷寺(本堂)/室生寺(金堂)/聖林寺など

千手観音

「十一面千手千眼観音」とも呼ばれ、千の手の一つひとつに眼を持ち、頭部は十一面の顔を備えたお姿です。千本の手は、どのような衆生をも漏らさず救済しようとする、観音の慈悲と力の広大さを示しています。千手観音様の手の数は、一般的に42本とされています。これは、胸前で合掌している2本を除く40本の手が、それぞれ25の世界を救済するという教えによるものですが、中には実際に千の手を持つ(!)観音様もいらっしゃいます。

唐招提寺千手観音立像

奈良時代に製作されたこの千手観音像は、木心乾漆という珍しい造りをしています。木彫り造った原型の上に木屑を練り込んだ漆を塗り細部を整形する造りで、脱活乾漆とは違い木心が内部に残っているため、乾漆の厚みが薄い特徴があります。奈良時代後期特有の技法です。さらに特筆すべきは手の数ですが、大脇手42本、小脇手911本!合わせて953本もの手がバランスよく配され不自然さを全く感じさせません。本来は本当に1000本あったそうで、これでも少なくなっているというのですから驚きです。これだけの観音様が脇にいらっしゃるというのに、堂全体として非常に統一感のとれた唐招提寺金堂はまさに圧巻。

像名: 千手観音立像
文化財区分: 国宝
制作年代: 奈良時代末期
材質: 木心乾漆
像高: 約5.4m
安置場所: 唐招提寺金堂

その他で見られる場所

興福寺(国宝館)/達磨寺など